経営法務
取引先が代金債権を譲渡してしまったが、納得できません
ある商社(A)から、建材を仕入れておりましたが、その商社が夜逃げをしてしまいました。その直後、関東の金融業者(B)から、商社Aの債権を譲り受けたとして、建材の未払代金を払えと連絡がきました。Bによると、債権譲渡登録がされているようです。
未払代金は300万円なのですが、実は、納品された建材の大半は壊れていて、200万円分は使いものになりませんでした。
金融業者からは、300万円全額をとにかく払ってほしい、後は商社と協議して200万円の返還を求めればいいではないか、と言われています。納得いきませんが、どうしたら良いでしょうか。
1 まず本当に債権が譲渡されたのか確認しよう
最近、債権の買取業者が増えてきたため、倒産間際に、金融業者に債権譲渡がなされるケースも多くなりました。そのため、【質問】のような相談も増えています。
債務者の立場からすると、見ず知らずの業者から突然債権を支払えといわれても戸惑ってしまい、どうしたらいいか、分からないと思います。
ですが、まずは、本当に債権が譲渡されたのか、しっかり確認しましょう。
具体的には、債権を譲渡した商社Aの代表者に連絡がつくなら連絡して、本当に債権譲渡したのか、確認しましょう。
また、債権譲渡の証拠があるのかも確認します。例えば、商社Aからの債権譲渡通知書があるか、債権譲渡登録が法務局でされているのか、などです。
債権譲渡の証拠があるか心配ならば、弁護士に相談して判断を仰いで下さい。
2 譲渡によって不利益をこうむることはない
本当に債権が譲渡されていた場合、新しい債権者には、以前の債権者に主張できたことは主張できるのでしょうか。本件でいうと、建材の大半が壊れていたのですから、代金減額が請求できる筈ですが、金融業者Bにも対抗できるか、です。
これについては、債権譲渡によって落ち度のない債務者側が不利益をこうむるのはおかしいため、民法468条では、「譲渡人が譲渡の通知をしたにとどまるときは、債務者は、その通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。」と規定されています。
今回の事案でいうと、債権譲渡があったとしても、商社Aに主張できた代金減額請求を金融業者Bにも主張できることになります。
3 商社Aに代金減額の意思表示をすること
ただ、注意が必要なのですが、代金減額のために必要な手続を忘れずに行う必要があります。
本件では、建材の大半が破損していたので、適合品を引き渡すよう求め、引き渡さない場合には代金の減額を請求する(民法563条)通知を商社Aに行う必要があります。
これを速やかにやらないと、代金減額の請求ができなくなる可能性があるため、しっかりチェックしたいところです。
4 最後に
債権譲渡されても、慌てず、本当に債権譲渡されたか確認し、従前主張できたことはきちんと主張し、契約の相手方にしかるべき手続をとっておけば、問題がありません。ただし、やや法律関係が難しいので、弁護士に相談しておくのが無難です。
月刊東海財界2025年4月号掲載
※記事が書かれた時点の法令や判例を前提としています。法令の改廃や判例の変更等により結論が変わる可能性がありますので、実際の事件においては、その都度弁護士にご相談を下さい。