労働紛争

退職時における有給休暇の時季変更をさせることはできるのか?

質問

私は、建設会社を経営しています。
従業員で、総務課で長年勤めていた者が、突然退職することになりました。その従業員は、退職の申し出があった翌日から、年次有給休暇20日分を取得し、その最終日で退職したい、と言っています。
私としては、大変急なことなので、後任者への引き継ぎをしてほしいと頼みましたが、有休を使うので出社しなくてもいいはずだ、と言われてしまいました。
就業規則には、会社が有休の時季を変更することができるという規定がありますが、有休の時季を変更して、この従業員に出社を命じ、引き継ぎをさせることはできませんでしょうか。

ご回答

1 今回問題となっている年次有給休暇は、労働者の権利です。
したがって、原則として、労働者は希望した時季に有休を取得できます。
しかし、それでは使用者の事業の正常な運営を妨げる場合もあるため、その場合には、使用者には時季変更権といって、有休の時季を変える権限が与えられています。
よって、通常は、労働者からの有休の申請に対して、時季を変えてもらい、必要な時期に出社してもらうことができます。

2 ところが、今回のように、退職日が有休を消化した日となっているケースでは、時季変更権を行使できないと解釈されています。
なぜなら、退職日が決まっているため、退職日以降に有休を取得することができず、時季を変更しようがないからです。
今回の事案では有休を全部消化した日に退職するとのことですから、時季変更権を行使できず、出社を命じることができないという結論になります。

3 このような結論を避けるためには、就業規則などで、退職の申し出は退職日の1か月以上前にするように定めておく方法があります。これによって、退職までの期間を長くし、有休を消化してもなお引き継ぎの期間が確保できるようにするのです。
このような規定がない場合、労働者は退職の2週間前に意思表示すれば労働契約は終了してしまいますから、有休の残り日数によっては、今回のような結果となります。

4 今回のような場合は、従業員が納得する代償を用意し(たとえば、退職金の査定で従業員に有利になるよう裁量の範囲で融通をきかせる、などがあります。)、任意の交渉で、退職日を少し延ばしてもらって引き継ぎをしてもらったり、任意に引継書を作ってもらうなどして、上手に交渉していただきたいところです。
高圧的な態度で臨んでも、決して問題の解決にはならないことが多いです。

月刊東海財界2023年8月号掲載

※記事が書かれた時点の法令や判例を前提としています。法令の改廃や判例の変更等により結論が変わる可能性がありますので、実際の事件においては、その都度弁護士にご相談を下さい。

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