経営法務
取引先からのハラスメント、無策はダメ
女性従業員のAさんに、お得意先のY社を担当してもらっていたところ、Y社の男性担当者Bさんから、何度も食事に誘われている、最近は交際も迫られている、やんわりと断っているが取引中止も匂わされている、と相談がありました。
Y社は、古くからの得意先なので、どうすればいいか悩みます。会社として何か対応すべきでしょうか。また、具体的に何をすれば良いでしょうか。
1 某テレビ局の対応
某テレビ局の事案が世間を騒がせていますが、従業員が被害を受けているのを把握しながら、会社が何の対応もせず放置していると、経営トップの責任問題にも発展しかねない時代となりました。
上記事案では、会社は、当事者に事情聴取すらせず、漫然と出演番組を継続するなど、適切とは言い難い対応をしたことで批判を浴びました。
企業は、従業員が取引先等から被害を受けた場合に、いかなる対応をするべきでしょうか。
2 適切な対応
(1)初期対応
男女雇用機会均等法11条1項では、事業主は、職場内のセクハラについて、労働者からの相談に応じたり、適切に対応するために必要な体制を整備する等の措置を講じなければならないと定められています。
そして、厚労大臣は、事業主向けの指針(以下「セクハラ指針」といいます。)を定めることが規定されており(11条4項)、令和2年に最新のセクハラ指針が公表されています。
上記セクハラ指針では、他事業者からのセクハラにも対処しなければならないと明確に指摘されています。
初期対応としては、Aさんから何があったかを事情聴取する、Aさんを担当から外し、必要に応じてメンタルケアを行う、等が考えられます。
(2)取引先への協力要請
セクハラ指針では、他の事業者によるセクハラに対して、①他の事業者に事実確認への協力を求める、②他の事業主に再発防止に向けた措置への協力を求める、ことが必要だと指摘されています。
協力を求められた業者側もこれに応じることが、法11条3項で求められています(ただし努力義務です。)。
今回の事案では、事実確認の上、Bさんの行動が悪質ならば、Y社に対してBさんに対する聴取への協力を求めるべきでしょう。あるいは、BさんをX社の担当から外すことを求める必要があるかもしれません。
(3)加害者への処分の検討
Y社としても、事実が確認されれば、Bさんへの懲戒処分を検討しなければならないでしょう。その際は、Y社は自らBさんを事情聴取し、事実確認するべきです。
というのも、懲戒処分をするのに十分な調査をしないのは、後日争われるリスクがあるからです。
これに対し、Y社が何ら措置をとらず、不合理な対応に出る場合は、X社はY社との取引中止も検討するべきでしょう。
3 最後に
某テレビ局の事案でも、初動を誤らず、従業員を守る対応をしていれば、経営陣の退任、スポンサー離れなどの重大な事態を招くことはなかったのではないでしょうか。波風を立てないことが暴風雨を招いた典型例ではないかと感じました。
月刊東海財界2025年4月号掲載
※記事が書かれた時点の法令や判例を前提としています。法令の改廃や判例の変更等により結論が変わる可能性がありますので、実際の事件においては、その都度弁護士にご相談を下さい。